倉吉線の廃跡を訪ねて

倉吉線の廃跡を訪ねて

鳥取県中部にある人口5万人余りの町、倉吉市は江戸時代から大正時代にかけて建築された古い商家の町並みと白壁土蔵群が評判で、毎年多くの観光客が訪れていると聞く。今回はその倉吉市の魅力と、昭和60年まで走っていた倉吉線の廃線跡を訪ねるローカル線の旅に出掛けた。先ずは青春18キップを片手に鳥取駅経由で山陰本線倉吉駅に赴いた。倉吉へは智頭急行の特急列車「スーパー白兎」が京阪神からの乗客を運び、岡山からは特急「いなば」が智頭線経由で鳥取駅まで走り、鳥取―倉吉間は普通列車や快速「鳥取ライナー」が40分~60分前後で連絡している。夏休みに入ったある日、私は岡山駅6時16分発の姫路行き列車で上郡駅へ、ここから7時15分発の智頭線普通列車に乗って鳥取駅へ。鳥取駅では10分の連絡で倉吉行き普通列車に乗って10時35分に倉吉駅に到着した。

倉吉駅に停車の特急スーパーおき
 
倉吉駅始発の特急スーパーはくと

この駅は倉吉と京都を3時間半で結ぶ智頭線特急「スーパーはくと」の始発駅で乗降客も結構多い。嘗て倉吉駅は昭和47年まで上井駅と呼ばれ、倉吉の中心街にあった倉吉線の打吹駅が倉吉駅と呼ばれている時期もあった。また現在2面3線の1番線東側に倉吉線用の0番線、3番線の北側に数本の留置線、駅舎の西側に貨物ホームがあった。倉吉線はこの駅を起点駅にここから岡山県の蒜山山麓にある山守駅までの20Kmを昭和60年まで走っていた。 

現在の倉吉駅
全ての特急・快速・普通車が停車する倉吉駅
2面3線倉吉駅の構内

女性駅員にキップを見せ改札を出ると、山陰の夏の太陽が身体いっぱいに降り注ぎ、一瞬目眩がしてタイムスリップした。倉吉線は明治45年に倉吉軽便線として上井から倉吉(現在の打吹)の4.2Kmで開業。その後倉吉から岡山県の中国勝山までが予定線とされ、昭和16年に関金まで開通。これは当時の陸軍演習のための兵員輸送が大きな要因で終戦後は昭和33年に山守駅まで開通。しかし時代の趨勢は陰陽連絡線としての役目も消滅させ、昭和60年(1985年)に倉吉線は廃線となった。そんな思いに耽りながら倉吉駅から路線バスに乗って旧打吹駅のあった緑の彫刻プロムナード公園に出掛けた。現在この公園の一角には打吹駅の跡地に建てられた「倉吉線鉄道記念館」があって館内には倉吉線に関する資料や写真パネルが展示されている。

誰でも無料で気軽に見学でき、また記念館横には当時活躍したSL機関車C1175が展示されている。ここは鉄道ファンならずとも倉吉観光お勧めスポットのひとつだ。せっかく倉吉の中心街に来たので倉吉の魅力に触れようと、先ずは倉吉出身の横綱「琴桜」の大きな銅像すぐ近くにある倉吉観光案内所に入って観光パンフをゲット。倉吉観光のメインスポットが白壁土蔵群・赤瓦散策と知り、早速、市内を流れる玉川沿いの白壁土蔵の建ち並ぶ町並みを歩いてみた。

白い漆喰壁に黒の焼き杉板、屋根は赤い石州瓦、そんな古い蔵を改装して作られた施設が「赤瓦」。こだわりの店や工房など9つの蔵がお土産や創作体験をさせてくれる。先ずは造り酒屋の蔵を改装した3号館の中野竹芸に入った。館内は創作竹芸品で一杯。伝統の風情ある作品から竹の美しさを追求した情緒ある品まで、所せましと展示されている。そんな蔵で観光客は品物を手に品定めに余念のない風景が微笑ましい。白壁土蔵の疎水に泳ぐ鯉を見ながら町を歩いていると、初めて倉吉へ着いた時に感じたのんびりしたゆったり感が心地よい。1時間ほどの散策でお腹も空いたので昼食にお勧めのお店を紹介してもらおうと観光案内所に戻った。

お昼の弁当を食べていた女性スタッフが気軽に「何系がいいですか」と私に聞いた。「何系?」と聞きなおすと、「日本食系、中華系、洋食系。軽食喫茶系の何系ですよ」と笑いながら言うので、私もすかさず「日本食系」でお願いしますと答えた。1枚の食事マップを提示して、観光案内所から徒歩5分にある「喜太亭万よし」を紹介してくれた。出掛けてみると立派な割烹料理店で入るのに一瞬躊躇するほどの店だ。静かな佇まいの部屋に通され、お任せ昼席の「倉吉定食」(2100円)を注文した。料理を運んできてくれた店員さんによると、この店は版画家・棟方志功が好んで出掛けてきた店で、店名の「喜太亭万よし」は棟方志功が命名。座敷内には棟方志功が滞在中に書き残した書画が飾られ、落ち着いた雰囲気の中で山陰の海の幸が楽しめる。出掛ける際は事前に予約電話を入れておくと余計な気遣いが省かれ便利だ。

食後は街中から歩いて30分ほどの所にある古刹・長谷寺に出向いた。この寺は山陰地方では数少ない室町時代後期の建造物で、舞台造りの堂内には奉納絵馬が数多く納められ、中国観音霊場第30番札所としても参拝者にもよく知られている。本堂前で休んでいると、時折涼しい風が堂内を吹き抜け、古刹参拝の満足感と心地よさが夏の暑さを忘れさせてくれる。

倉吉線は廃線後27年経ったが今も多くの人達に親しまれている。線路跡や駅舎・橋梁などが往時のまま残っている廃線も珍しい。倉吉観光協会がそこに目を付け2010年4月、「旧国鉄倉吉線廃線跡トレッキング」を開催。昭和60年3月に廃線となった旧国鉄倉吉線は今、 ウォーキング型観光商品として姿を変え再発進! 旧関金駅~旧泰久寺駅に向かうと郷愁漂う線路跡、旧泰久寺駅のプラットホーム、戦時中に建設されたコンクリート橋梁の現存や 「山守トンネル」にはドキドキ感がいっぱい。こんな呼びかけに全国から1500人以上の鉄道ファンが集まったと聞く。2012年の3回目の開催に期待を込めて、旧国鉄倉吉線の息づくロマン溢れる人情豊かな街・倉吉を後にした。

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