ごめんなはり線に乗る

ごめんなはり線に乗る

JR四国との接続駅・ごめん駅

JR四国との接続駅・ごめん駅


夏の太陽が照りつける7月のある日、土讃線後免駅のホームでセミの鳴き声を耳に立っていた。夏本番のローカル線の旅、いやが上にも旅情が盛りあがる。やがて1番ホームに真っ白い車体のワンマンカーがまるでイルカのように入線してきた。かつてソフィアローレン主演、ジュリーロンドンの主題歌でヒットした「イルカに乗った少年」という映画があった。そんな映画を思いださせる白いスマートなワンマンカーだ。これが私の「ごめん・なはり線」との最初の出会いだった。

正式には「阿佐線」と呼ばれる「ごめん・なはり線」は今年7月で開業1周年を迎える。ご多分に漏れず開業にこぎつけるまでは幾多の難関があった。当初四国循環鉄道の高知と徳島を結ぶ路線として計画されたが、結果は後免-奈半利の42.7キロを結ぶ全国最後のAB線(地方開発・地方幹線)として平成14年7月、着工以来37年の歳月を経てやっと開業した。経営は11市町村で構成する「土佐くろしお鉄道」という第3セクター。「ごめん・なはり線」は全線高架、沿線には間伐材をうまく利用した20の駅があって1日25便、8往復の快速列車を走らせている。列車から見える雄大な太平洋の景色と漫画家やなせたかしさんの各駅でのキャラクターを売りにして1年経った。開業1年目は78万人の乗客があり赤字予想を覆して1200万円余の黒字を出した。そんな予備知識を入れて意気盛んな「ごめん・なはり線」に乗ってみた。

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麦ワラ帽にスニーカー、土讃線後免駅に降り立った私は2階のキップ売り場で「ごめん・なはり線開業1周年記念乗り放題キップ」を偶然手に入れた。1000枚限定の記念キップだけにラッキーな出足だ。切符といっても魚染瀬で作られた往来手形のような木製の大型記念キップ。係りの人は「何か印象に残るものをと考え発売したが制作コストがかかりすぎて上司から小言を云われました」と苦笑しながら販売してくれた。確かに後免-奈半利の往復運賃が2080円。立派な木製の1日乗り放題キップが2100円の割安感。私のキップには727の番号が刻印され改札口では乗車日を押印してもらって乗車。そしてマスコット人形「ごめんえきお君」に見送られて11時26分発の安芸行き快速列車に乗った。

  • 9640系ステンレス製普通車

    9640系ステンレス製普通車

  • 木製の1日乗り放題切符

    木製の1日乗り放題切符

  • 後免駅のマスコット人形

    後免駅のマスコット人形

乗車したのは9640形ステンレス製のシルバー車体の一般車両で大きな窓にロングシートとクロスシートの組み合わせは高架線を走る車窓からの眺めをよくしている。後免駅で座席は8割近く埋まり思っていたより乗客の多さにびっくりした。発車してまもなく後免町駅手前で土佐電鉄の電停に路面電車が停車しているのが下に見えた。イルカ列車はスピードを上げて快調に高架線を走り、各駅ではやなせたかしさんのマスコットキャラクターが出迎えてくれる。「のいち」「よしかわ」を過ぎ「あかおか」辺りから右に太平洋の雄大な風景が目に飛込んできた。

土佐湾の海岸線を走る列車は「ごめん・なはり線」の魅力を乗客に心憎いほど見せつけてくれる。岸本海岸、琴ケ浜、ヤシィ-パークと沿線に続く南国ビーチにはテニス場、プール、ヨットハーバー、海水浴場、高い椰子の木、道の駅などが点在して車窓からの風景は心を晴れやかにしてくれる。そして「このイルカ列車に乗ってよかった」という満足感とちょっとした異国情緒を感じたのは私だけだろうか。やがて快速列車は「夜須」「和食」を過ぎて11時58分、終着「安芸駅」に着いた。ここでは「あきうたこちゃん」が出迎えてくれた。

  • マスコット人形の「あきうたこちゃん」

    マスコット人形の「あきうたこちゃん」

  • 安芸駅正面

    安芸駅正面

  • 安芸駅改札口

    安芸駅改札口

次の奈半利行き発車まで30分あったので安芸駅を降りて改札口すぐ前の「ぢばさん市場」を訪ねてみた。ユス゛、竹細工、地酒から鉄道グッズ、阪神グッズまで安芸周辺の特産品を販売するバザールは是非訪ねて見たい観光スポットのひとつ。私もここでおにぎりとお茶を買って簡単な昼食をとった。目の前に「阪神優勝まであと36」と表示したカウントダウンボードがあって「安芸市はタイガータウン」だと再認識。そういえば安芸駅の留置線に黄色と黒のタイガースカラーに塗った特別車両が停車していた。ごめん・なはり線には10両の車両があって、1S-2Sの2両が9640形オープンデッキのくじらをモチーフにした特別車両の別名「くじら列車」。残り3-10の8両が9640形の一般車両で私にはシルバー車体の一般車両は「イルカ」のイメージが強く、独り「イルカ列車」と決めて12時26分発の奈半利行きに乗った。

  • 安芸駅の「ぢばさん市場」

    安芸駅の「ぢばさん市場」

  • タイガースタウン安芸

    タイガースタウン安芸

  • 安芸駅ホーム

    安芸駅ホーム

安芸駅から3分ほどで伊尾木駅に到着。この駅ではマスコット人形「いおきトラオ君」が出迎えてくれた。ここは映画「男はつらいよ」のロケ予定が渥美さんの死去で実現しなかったが渥美さんへの思いが強く、「寅さん地蔵」やマスコット人形を作って冥福を祈るなど、この地の人情厚さを物語っている。そして「下山駅」へ。ここでは童謡作曲家・弘田龍太郎の「浜千鳥」の歌碑に出会える。そしてこの海岸からは夕焼けがとても綺麗で太平洋の水平線も見えてデートスポットにぴったりだと熱っぽく話す高校生が印象的だった。列車は旅情をかき立てながら「唐浜」「田野」などの駅に停車して12時46分、終着「奈半利駅」に到着。ホームで微笑ましい風景に出くわした。マスコット「なはりこちゃん」の前でポーズをとる幼子とヤングママ、その姿を懸命に撮影しようとする若いパパ。そんな光景を暖かく見守る駅員さん。思わず私も足を止めて微笑んだ。

ここで「ごめん・なはり線」は終わる。奈半利駅2階展望広場から遠く東方の景色を眺めていると、奈半利を通り室戸市経由で徳島までの四国循環鉄道の実現に奔走した先人の想いが脳裏をかすめる。ふと土佐日記、
紀貫之の歌が思い出された。

 「照る月の流るる見れば、天の川 いづるみなとは 海にざりける」

私の「ごめん・なはり線」の旅は車窓から眺める太平洋の雄大な風景と漫画家やなせたかしさんのキャラクターが繰り広げる夢とメルヘンの世界に終始した。気持ちを晴らしたい時、ひとりメルヘン世界に浸りたい時、そして明日からの勇気を得たい時、そんな時きっと私はまた「ごめん・なはり線」のイルカ列車に乗っている事だろう。初年度の黒字が一過性ではなく、いつも元気なイルカ列車として力強く走り続けることを願って私は「ごめん・なはり線」を後にした。

特別車両「くじら列車」 (開業記念乗車券より)

特別車両「くじら列車」 (開業記念乗車券より)

あとがき

ごめんなはり線は開業一周年にあたる平成15年、一周年記念イベントとして「ごめん・なはり線文学コンクール」を開催され、全国から作品を募集した。その「詩・エッセイ部門」に筆者はこのHPの内容を基調にしたエッセイで応募。結果は予期しなかった最優秀賞に選ばれ表彰された。そんな縁もあって、その後NPO法人ごめん・なはり線を支援する会に入会し、私なりのサポート活動を今も続けています。

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