山陰と京阪神を2時間半で結ぶ智頭急行は2011年、開業17周年を迎える。この路線もご多分にもれず国鉄時代の建設がご破算になって沿線自治体などの出資で第三セクターとして再出発して平成6年12月に開業した鉄道。ただ智頭急行の特徴は全国の赤字にあえぐ第三セクターの中で数少ない黒字経営の鉄道のひとつです。それは山陽本線・上郡駅と因美線・智頭駅を結ぶ56.1㎞を130キロ運転も可能な高規格化軌道で建設し、そこを京阪神-鳥取間を結ぶ特急スーパー白兎や岡山-鳥取を結ぶ特急因幡が走ってJR幹線動脈機能の一端を担っているからだ。
以前の岡山-鳥取間は津山線、因美線に急行「砂丘」を走らせ3時間近くかかっていたのが現在は山陽本線-智頭急行-因美線経由で2時間で結んでいます。鳥取の人にとっては智頭急行の開業で西は岡山、広島、博多方面が、東は姫路-京阪神方面への時間が大幅に短縮されたの。これとは別に上郡-智頭駅の沿線には見るべき所も多くのんびりとワンマンカーに乗車しての1時間半の旅は都会で疲れた心を癒す絶好のローカル列車の旅だ。
そんな智頭急行列車に乗ろうと陽春の日曜日ぶらりと出かけてみた。出発はいつもの山陽本線瀬戸駅、8時00分発の姫路行き普通列車に飛び乗った。この姫路-岡山間は1時間に1本の割で普通列車が走っているがいつも満員に近い乗車率だ。かつて急行「鷲羽」の走っていた瀬戸-和気-三石を過ぎ8時29分上郡駅ホームに到着。「はくと・いなば」の特急で智頭急行線に乗り入れる人は多いが普通列車で乗り継ぐ乗客は少なく、この日は私を含め6人が智頭急行の普通車に乗り継いで出発した。
JR上郡駅の3番ホームの西端に智頭急行のホームがあります。乗り換え口で智頭駅までのキップを買おうとすると駅員さんが「今、1日乗り放題キップを発売しているのでこの方がお得ですよ」と進められ1000円で記念乗車券を買いました。確かに上郡-智頭駅往復が2520円、1日乗り放題キップが1000円では超お得。このキップは今、JRの青春18切符の発売に合せて販売されている。年3回、四季に応じてデザインの違った4種類を発売との事でキップマニアには見逃せない智頭線チケットだ。
8分の乗り換えで8時37分に上郡駅を出発。ディゼルカーは山間の田園地帯を一路北に向かって高架の路線を快調に走る。JRの古いローカル線と異なり新しい高架路線だけにスピードもだす。上郡駅を発車して19分、列車は四つ目の駅、佐用に到着した。佐用駅ではJR姫新線に接続し、津山・姫路方面への乗り換え駅。乗り継ぎ客は殆どなく列車は淡々と北に向かって発車した。
6分ほどして平福駅に到着。ここでは17分の停車。平福は因幡街道随一の宿場町として栄えた所で連子窓・格子戸の家などが連なる川端筋は昔の面影を残し、この風景は智頭急行沿線の見所のひとつ。17分もあるので運転手さんもホームを出る事を勧めてくれた。平福駅は立派な昔風の木造づくりで構内では「なごみ茶屋」や野菜の即売などを地元皆さんが売っている。この間、平福駅では下り「スーパーはくと1号」が、続いて旧型キハ181型車両の上り「いなば2号」が通過。この2つの特急列車の通過を待って9時18分にワンマンカーが再び智頭に向かって出発した。
列車は次の石井駅を過ぎて岡山県に入る。岡山県最初の駅は宮本武蔵駅。NHKの大河ドラマの影響で2003年頃は観光客が多くなった駅でホームには宮本武蔵の大きなレリーフが観光客を迎えてくれる。やがて列車は岡山県内で唯一の特急停車駅、大原に9時32分到着した。大原駅には智頭急行の列車基地があり、列車運行上でも智頭線中枢駅になっている。古くは因幡街道の宿場町として栄え、町のあちこちには今も往時の雰囲気が漂っている。
5分停車の間にホームで微笑ましい風景に出逢った。ワンマンカーの先頭付近で小さな子供を連れたお母さんが運転手さんにお弁当を手渡していた。多分大原駅付近に住む乗務員さんの家族がホームに弁当を届けに来たのだろう。やがて列車は発車、子供がホームで懸命に手を振る姿に見とれながら再び列車に乗った。列車は西粟倉、あわくら温泉を過ぎ鳥取県智頭町に入る。列車は山郷駅、恋山形駅に停車しながら定刻の10時03分、終着・智頭駅に到着した。
JR智頭駅の西に智頭急行の駅舎と本社があってJR因美線と接続しています。駅前には最近、智頭町観光センターが開設され初めてこの町を訪ねた人には便利で親切な施設です。智頭急行は上郡駅や大原駅から因美線に乗り入れ鳥取駅までの直通列車を運行するダイヤもあります。いずれにしても智頭急行の開業で智頭駅の列車本数や乗降客に大きな変革をもたらしました。
10時過ぎの智頭駅は1日の内でもっとも賑わう時間帯を迎える。10時03分上郡から智頭急行ホームに普通列車到着、10時21分岡山からの特急「いなば1号」が2番ホームに到着、10時23分鳥取からの特急「スーパーはくと4号」が1番ホームに到着。そして3番ホームには11時21発の普通列車が停車中。特急列車はそれぞれ3分間停車して、10時24分に鳥取行「いなば」が10時26分に京都行「スーパーはくと」が発車していった。2つの特急列車発車の後は智頭駅ホームはまた元の静寂を取り戻した。
次の鳥取行き普通列車の発車まで智頭の町を散策してみた。因幡街道の宿場町としてかつては栄え、今は森林木材の町として栄える智頭町の風情ある町並みの散策。列車乗り換えまでのこうした時間は自分を見直し、無心の気持ちで
人生を考えるまたとない時間。そんな無心の境地を求めて今日もコトコト走る列車の姿に自分の人生を投影しながら各地のローカル線を乗り歩いている。そんな私のローカル線の旅は今始まったばかりだ。