井原鉄道に乗る

井原鉄道に乗る

会社勤めをしている私にとって6月になると企業の決算状況が気になる。先日、私の住む岡山県の3セク企業、井原鉄道の2003年度決算書を見る機会があった。結果は1億7642万円の赤字。これでも前年の赤字額より40.7%も改善しての結果だ。輸送人員が113万5387人と前年より1.5%伸ばしたが、収入ほぼ横バイの3億3174万円。同じ3セク鉄道でも岡山県の東北部を走る智頭急行は5億円余りの黒字を出して全国の3セク鉄道38社の中でも智頭急行はベスト2に、井原鉄道はワースト部類にランクされ好対照を見せている。

高架線を快走するIRT355形車両

高架線を快走するIRT355形車両

井原鉄道は岡山県総社市と広島県神辺町の41.7キロを結ぶ3セク鉄道。この鉄道もご多分にもれず開業まで幾多の試練があった。昭和26年国鉄吉備線を総社から福山まで延伸して岡山県西南部と広島県備後地区との都市間輸送拡大の期待を担って計画された。昭和41年やっと工事が開始されたが工事の半分が終わったところで国鉄再建のあおりを受けて昭和55年に工事凍結。その後地元自治体が中心になって3セクの井原鉄道株式会社を昭和61年に設立。地元の熱い思いを背景に翌年なんとか工事を再開し、12年後の平成11年1月11日午前11時11分、一番列車を井原駅から発車させ開業にこぎつけた。

ペアフリー切符

そんな予備知識を胸に5年ぶりに井原鉄道に乗った。出発はいつもの山陽本線瀬戸駅、9時55分発の列車で岡山駅へ。ここから10時23分発吉備線総社行きに乗ること35分。10時58分に総社駅に着いた。総社駅はJR伯備線と接続し井原鉄道の始発駅でもある。JRの改札駅を出て井原鉄道の改札口で1日乗り放題のフリー切符を買った。現在フリーキップはほのぼの駅シリーズ切符が1200円、2人で乗るなら割引率のいいペアーフリー切符2300円で販売されている。総社-神辺間が片道1070円考えるとこの切符は井原鉄道を乗り歩くには是非利用したい切符だ。

総社駅5番ホーム

総社駅5番ホーム

井原鉄道は総社駅の5番・6番ホームから発着していたちょうど11時19分発の神辺行デイゼルカーが5番ホームに停車していた。土曜日のお昼前、ホームはガランとして乗客は誰も見あたらない。早速ホームで列車を思う存分写真に撮っていると6番ホームに11時5分着の列車が入ってきた。降りた乗客は5人。なんとのどかな駅だと感心している内に発車の時間が近づいた。車内は女子高生2人と私を含め他に4人の計6人。列車は静かにホームを離れた。総社駅から次の清音駅までの3.4キロは第2種鉄道事業免許社としてJR伯備線と同じ路線の上を走しって5分ほどで清音駅に到着。

井原鉄道の清音駅名標

井原鉄道の清音駅名標

この駅では岡山、倉敷方面からの乗客が15人ほど乗ってきた。座席の半分ほどが埋まって列車は清音駅を出ると高架線に入って大きく右にカーブすると高梁川を跨ぐトラスト橋の造形美が乗客の目を楽しませてくれる。高梁川を渡りきって川辺宿に着いた。井原鉄道は旧山陽道沿いに走るだけに沿線には昔の宿場町の面影を色濃く残している。運転台の後ろから遠慮気味に前方の景色をカメラに撮っていると「正面まで出て撮っていいよ」と運転手さんが声を掛けてくれた。

盛土と高架が大部分の路線から眺める景色は素晴らしい。列車は高架線のまま小田川に並行して一直線に進む。やがて交換可能な2面2線の吉備真備駅に到着。ここは真備町の中心駅、下車してのんびり町を歩いてまきび公園などを訪ねるのもいい。この日は高架駅の入口に七夕飾りが夏風になびいていた。夏の太陽を浴びながら列車は備中呉妹駅を過ぎ高架線を快走する。

矢掛駅ホーム

矢掛駅ホーム

11時42分2面2線の三谷駅に到着した。ここで上り列車と行き違うためしばらく停車。カメラで沿線の風景を撮っていると運転手さんが話しかけてきた。「この駅の近くにボタンのきれいなお寺があってシーズンには私も撮りに行ったりしてネ。この沿線にはいい被写体が多いですよ」と観光ガイドさんよろしく説明してくれた。よほど井原鉄道に愛着と誇りを持って毎日勤務しているのだなと感じて清々しい気分になった。三谷駅から4分ほどで矢掛駅に到着した。

井原駅は井原鉄道の中心駅。1面2線の行き違い駅で那須与一の弓と矢をイメージした構造に曳かれて下車した。井原鉄道の本社機能も備えた井原駅は開業数年前に準備され、しばらくは何もない空き地の真ん中にポツンと建っていた。昼食で駅前のお寿司屋さんに入ると、「本当にここに鉄道が来るのだろうか?最初は半信半疑でしたよ」と女主人が話す。その駅も今は井原市の玄関口として脚光を浴びている。

那須与一の弓矢をイメージしたモダンな井原駅舎

那須与一の弓矢をイメージしたモダンな井原駅舎

井原駅も大きく様変わりした。年輩の人は駅と云えば井原市と笠岡市を結ぶ井笠鉄道の走っていた頃の井原駅を云う。今の井笠バスセンターの所にあった駅だ。往時はこの付近が町の中心で近くの商店街(井原一番街)も賑わっていた。今回、私も知り合の家具店を20数年ぶりに訪ねてみたが閉鎖されていた。時代の流れを痛感する光景の連続だった。そして井笠鉄道も昭和46年に廃止されていた。そんな感慨を胸に町を散策するのもローカル線の旅の持つ魅力のひとつだろうか。

華鴒大塚美術館の展示室 (美術館パンフより)

華鴒大塚美術館の展示室 (美術館パンフより)

寿司屋の女主人の薦めもあってこの後、華鴒美術館を訪ねることにした。井原駅から下り列車に乗ること6分、1面1線の高架駅、子守歌の里高屋駅に着いた。高架のホームから南を見るとすぐ下に周囲の風景と違った雰囲気を持つ瓦葺きの日本建築が目に入る。これが華鴒美術館だった。この美術館は中に入るとまず正面の日本庭園が目に飛び込んでくる。華鴒美術館は神辺出身の日本画家、金島桂華の作品を中心にした現代日本画を展示。島根の足立美術館を縮小したような雰囲気が漂っていた。

美術館を出た後、高屋駅発の下り列車に乗って広島県の神辺町に向かった。御領駅は2面2線の行違い駅、続く湯野駅は1面1線の平凡な棒駅。湯野を出て国道と並行して走ると、列車は左にカーブして国道と分かれJR福塩線と並行して走る。しばらく走ると列車は終着神辺駅の井原線専用ホームに到着した。私の井原鉄道の旅もここで終った。

ibara110

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井原鉄道に乗る

井原鉄道に乗る

会社勤めをしている私にとって6月になると企業の決算状況が気になる。先日、私の住む岡山県の3セク企業、井原鉄道の2003年度決算書を見る機会があった。結果は1億7642万円の赤字。これでも前年の赤字額より40.7%も改善しての結果だ。輸送人員が113万5387人と前年より1.5%伸ばしたが、収入ほぼ横バイの3億3174万円。同じ3セク鉄道でも岡山県の東北部を走る智頭急行は5億円余りの黒字を出して全国の3セク鉄道38社の中でも智頭急行はベスト2に、井原鉄道はワースト部類にランクされ好対照を見せている。

高架線を快走するIRT355形車両

高架線を快走するIRT355形車両

井原鉄道は岡山県総社市と広島県神辺町の41.7キロを結ぶ3セク鉄道。この鉄道もご多分にもれず開業まで幾多の試練があった。昭和26年国鉄吉備線を総社から福山まで延伸して岡山県西南部と広島県備後地区との都市間輸送拡大の期待を担って計画された。昭和41年やっと工事が開始されたが工事の半分が終わったところで国鉄再建のあおりを受けて昭和55年に工事凍結。その後地元自治体が中心になって3セクの井原鉄道株式会社を昭和61年に設立。地元の熱い思いを背景に翌年なんとか工事を再開し、12年後の平成11年1月11日午前11時11分、一番列車を井原駅から発車させ開業にこぎつけた。

ペアフリー切符

そんな予備知識を胸に5年ぶりに井原鉄道に乗った。出発はいつもの山陽本線瀬戸駅、9時55分発の列車で岡山駅へ。ここから10時23分発吉備線総社行きに乗ること35分。10時58分に総社駅に着いた。総社駅はJR伯備線と接続し井原鉄道の始発駅でもある。JRの改札駅を出て井原鉄道の改札口で1日乗り放題のフリー切符を買った。現在フリーキップはほのぼの駅シリーズ切符が1200円、2人で乗るなら割引率のいいペアーフリー切符2300円で販売されている。総社-神辺間が片道1070円考えるとこの切符は井原鉄道を乗り歩くには是非利用したい切符だ。

総社駅5番ホーム

総社駅5番ホーム

井原鉄道は総社駅の5番・6番ホームから発着していたちょうど11時19分発の神辺行デイゼルカーが5番ホームに停車していた。土曜日のお昼前、ホームはガランとして乗客は誰も見あたらない。早速ホームで列車を思う存分写真に撮っていると6番ホームに11時5分着の列車が入ってきた。降りた乗客は5人。なんとのどかな駅だと感心している内に発車の時間が近づいた。車内は女子高生2人と私を含め他に4人の計6人。列車は静かにホームを離れた。総社駅から次の清音駅までの3.4キロは第2種鉄道事業免許社としてJR伯備線と同じ路線の上を走しって5分ほどで清音駅に到着。

井原鉄道の清音駅名標

井原鉄道の清音駅名標

この駅では岡山、倉敷方面からの乗客が15人ほど乗ってきた。座席の半分ほどが埋まって列車は清音駅を出ると高架線に入って大きく右にカーブすると高梁川を跨ぐトラスト橋の造形美が乗客の目を楽しませてくれる。高梁川を渡りきって川辺宿に着いた。井原鉄道は旧山陽道沿いに走るだけに沿線には昔の宿場町の面影を色濃く残している。運転台の後ろから遠慮気味に前方の景色をカメラに撮っていると「正面まで出て撮っていいよ」と運転手さんが声を掛けてくれた。

盛土と高架が大部分の路線から眺める景色は素晴らしい。列車は高架線のまま小田川に並行して一直線に進む。やがて交換可能な2面2線の吉備真備駅に到着。ここは真備町の中心駅、下車してのんびり町を歩いてまきび公園などを訪ねるのもいい。この日は高架駅の入口に七夕飾りが夏風になびいていた。夏の太陽を浴びながら列車は備中呉妹駅を過ぎ高架線を快走する。

矢掛駅ホーム

矢掛駅ホーム

11時42分2面2線の三谷駅に到着した。ここで上り列車と行き違うためしばらく停車。カメラで沿線の風景を撮っていると運転手さんが話しかけてきた。「この駅の近くにボタンのきれいなお寺があってシーズンには私も撮りに行ったりしてネ。この沿線にはいい被写体が多いですよ」と観光ガイドさんよろしく説明してくれた。よほど井原鉄道に愛着と誇りを持って毎日勤務しているのだなと感じて清々しい気分になった。三谷駅から4分ほどで矢掛駅に到着した。

井原駅は井原鉄道の中心駅。1面2線の行き違い駅で那須与一の弓と矢をイメージした構造に曳かれて下車した。井原鉄道の本社機能も備えた井原駅は開業数年前に準備され、しばらくは何もない空き地の真ん中にポツンと建っていた。昼食で駅前のお寿司屋さんに入ると、「本当にここに鉄道が来るのだろうか?最初は半信半疑でしたよ」と女主人が話す。その駅も今は井原市の玄関口として脚光を浴びている。

那須与一の弓矢をイメージしたモダンな井原駅舎

那須与一の弓矢をイメージしたモダンな井原駅舎

井原駅も大きく様変わりした。年輩の人は駅と云えば井原市と笠岡市を結ぶ井笠鉄道の走っていた頃の井原駅を云う。今の井笠バスセンターの所にあった駅だ。往時はこの付近が町の中心で近くの商店街(井原一番街)も賑わっていた。今回、私も知り合の家具店を20数年ぶりに訪ねてみたが閉鎖されていた。時代の流れを痛感する光景の連続だった。そして井笠鉄道も昭和46年に廃止されていた。そんな感慨を胸に町を散策するのもローカル線の旅の持つ魅力のひとつだろうか。

華鴒大塚美術館の展示室 (美術館パンフより)

華鴒大塚美術館の展示室 (美術館パンフより)

寿司屋の女主人の薦めもあってこの後、華鴒美術館を訪ねることにした。井原駅から下り列車に乗ること6分、1面1線の高架駅、子守歌の里高屋駅に着いた。高架のホームから南を見るとすぐ下に周囲の風景と違った雰囲気を持つ瓦葺きの日本建築が目に入る。これが華鴒美術館だった。この美術館は中に入るとまず正面の日本庭園が目に飛び込んでくる。華鴒美術館は神辺出身の日本画家、金島桂華の作品を中心にした現代日本画を展示。島根の足立美術館を縮小したような雰囲気が漂っていた。

美術館を出た後、高屋駅発の下り列車に乗って広島県の神辺町に向かった。御領駅は2面2線の行違い駅、続く湯野駅は1面1線の平凡な棒駅。湯野を出て国道と並行して走ると、列車は左にカーブして国道と分かれJR福塩線と並行して走る。しばらく走ると列車は終着神辺駅の井原線専用ホームに到着した。私の井原鉄道の旅もここで終った。

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